マイクロソフトからWindows 7のSKU(Stock Keeping Unit-製品種類)が発表になった。6種類もSKUがあるのには驚いたのが、もともとVistaも同じく6種類あるらしい。それよりももっとあきれたのが、急速に立ち上がりつつある、Netbookに対する仕打ちだ。
Netbook向けとされる、Windows 7 Starter Editionは、アプリが3つしか開けないらしい。
気に入らなかったら、もっと高いEditionを使えと。
馬鹿じゃねぇの?
既存の枠を超える超低価格で、Netbookを実現するためには、もともとマイクロソフトのOS価格の高さが、一番のネックになっていた。それを回避するために、AsusがEee PC 701を出す際に相当な労力をはらって、はじめてPCを使う層でも、それなりに取り付きやすそうなユーザインタフェースをXandros Linux上に作りこんだ。
▼AsusがEee PC向けに提供している、Xandros Linux上のユーザインタフェース
(画像出典: Eeeuser.com)
実用になったかどうかは別として、Linuxを一般消費者に定着させる試みとして、AsusとEee PCは、かつてないほどの成功を収めたと言ってよいと思う。この動きはAcerのLinpus、HPのSuseベースのLinuxをNetbook製品に搭載させる契機になった。また、以前からUbuntu搭載の通常PCをBTOしていたDellは、Netbookにも、もちろんUbuntuを最低価格SKUに載せてきた。
Netbookにおける、メーカー各社のこうした動きは、着実にマイクロソフトにプレッシャーを与えていった。そのため、マイクロソフトはNetbook (マイクロソフト用語ではULCPC-超低価格PC) 限定で、激安価格でXP ULCPC版をライセンスする体系まで作らされる羽目になった。Vistaは当初のNetbookの低容量SSDには収まりきらないし、動作が緩慢過ぎるし、電池の消費も激しく、Netbookには不向きだった。
実際のところ、ULCPC版とはいうものの、中身は XP Home Editionで、単にライセンス料が安いだけだ。Netbookに引きずられて、Vistaのライセンス料に影響を与えたくない、マイクロソフトの思惑が、格安版XPを生んだとも言えるだろう。結果として、XPのEOL(生産終了)をずるずると引き延ばされることになり、Vistaへの移行を遅らせる、さらなる要因になった。
個人的にWindows 7に妄信的な、最近のメディア記事に不信感を感じている。1年ほどVistaを使ってみた結果、個人的には「まったく使う価値なし」と烙印を押したので、単なるVista改良版のWindows 7に否定的になっているかもしれない。だからこそ、Windows 7のプレリリースやベータを、自分でもEee PCにインストールして、本当にそれほどいいものなのか、使ってみている。
Windows 7べた褒めのメディア記事を、完全否定するほどの結論はまだでていない。だが、少なくともNetbook上でWindows 7を使う分には、XPを超えるものはひとつも見つけることができていない。
確かにWindows 7はOSフットプリントも小さくなったし、Netbookでもそれなりに動くだけの環境になってきた。マイクロソフトが言う、Netbook向けでも快適に動作する、つーのもあながち嘘ではないだろう。でも、別にXPと同等かやや下程度になっただけだ。一方、Office 2007などから始まった、無駄に画面を取るリボンメニューだの、幅広のデフォルトタスクバーだの、解像度の低いNetbookに最適化されているとは言いがたい。
▼XPとWindows 7のPaintで、同じ画像を、典型的なNetbook解像度、1024×600で表示してみたところ。
Windows 7はOffice 2007でおなじみ、幅の太いリボンメニューが狭い画面を大きく占有し、画像表示領域がXPよりもかなり少ない。
Netbookでの使い勝手に限っていえば、XPのほうが優れていると言えると思う。XPは昔の性能の低い、解像度の低いPCに、性能や操作性を最適化してるんだから、そのころのPCに近いNetbookにマッチするのは当然だが。
今日はこんな記事まで登場した。
Windows 7がネットブックブームの終わりを招く(PC Watch)
Vistaの性能や、不具合があまりにひどかったので、記者各位は感覚がある意味麻痺して、Windows 7に妄信的になっているのではないだろうか。それとも、そういった記事は広告費の投入されたタイアップ記事なのであろうか。
まぁとにかく、消費者を馬鹿にしないでいただきたい。ある価格で一度手に入れた機能を、理由なく消費者は手放さない。いまあるNetbookの使い勝手、性能と価格のいずれかを妥協させるには、それなりのメリットの提示が必要だ。
フル機能のXP HomeやLinuxの代わりに、3つしかアプリを開けないWindows 7搭載Netbookを買う、あるいは上位Windows 7搭載Netbookに余分にカネを払うだけのメリットが、あるだろうか。
PCメーカー各社も、「はいそうですか、ちょっと高いけどBasic Edition買いますよ」と尻馬に乗るようなアホではない。Netbook向けLinux構築で培ったノウハウ、それをぶつけてより安いWindowsライセンスコストを引き出してきた、交渉手腕を無駄にはしないだろう。PCメーカー主導によるNetbook向けLinuxや、その上のユーザインタフェースなど、市場にもまれてどんどん進化してきている。さらに、PCメーカーに加えて、OSディストリビュータもNetbook向け付加機能を載せてきたりもしている。
▼画面はUbuntu Netbook RemixというNetbook向けのユーザインタフェース。
Ubuntuはコンシューマ向けLinuxで最も普及しつつある、Canonical社のディストリビューション。
競合OSも次々登場、しかも世界的な不況下で、たいした努力もせず余計に消費者から金を巻き上げられるという発想は、どっからくるんだろうか。吐き気がする。
ぜひ大失敗して欲しい。